新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(諮問)
6月22日(木)に行われた第112回中央教育審議会にて、「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働 き方改革に関する総合的な方策について」の諮問が行われました。
以下に全文掲載いたします。
新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について
平成29年6月22日 文部科学大臣 松野 博一
(理由)
我が国の学校教育において,教員は高い専門性を持ち,幅広い業務を担い,子供の状況を総合的に把握して指導し,高い成果を上げてきました。こうした成果は,国際的にも評価が高い我が国の教員が,子供への情熱や使命感を持った献身的な取組を積み重ねてきた上に成り立ってきたものといえます。
一方,社会に目を向けると,今世紀は,新しい知識・情報・技術が社会のあらゆる領域での活動の基盤となっている知識基盤社会と言われておりますが,近年,知識・情報・技術をめぐる変化の早さが加速度的となり,情報やグローバル化といった社会の変化が,人間の予測を超えて進展するようになってきております。とりわけ,最近では第4次産業革命ともいわれる,進化した人工知能が様々な判断を行ったり,身近な物の働きがインターネット経由で最適化されたりする時代が到来し,社会や生活を大きく変えていくとの予測がなされております。
このような急激な社会的な変化が進む中で,子供が変化を前向きに受け止め,豊かな創造性を備え持続可能な社会の創り手として,予測不可能な未来社会を自立的に生き,社会の形成に参画するための資質・能力を一層確実に育成することが求められています。このため,平成 28 年 12 月の中央教育審議会答申「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」を受けて,小・中学校の学習指導要領等の改訂を行ったところであり,これまでの取組の実績を基盤としつつ,これからの学校教育においては,この新学習指導要領等を確実に実施し,学校教育の改善・充実に努めていかなければなりません。特に,子供の指導を直接担う教員には,教育課程を中心に学校の教育活動全体の質的な向上を図る「カリキュラム・マネジメント」の実現や,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善,教材研究,学習評価の改善・充実などを進める力が求められています。
こうした学習指導のほか,生徒指導,部活動,保護者や地域との連携など学校や教員に対する多様な期待は,一方で長時間勤務という形で既に表れており,公立の小・中学校の教員を対象に実施した教員勤務実態調査(平成 28 年度)の速報値によって,看過できない深刻な状況であることが改めて明らかになったものと受け止めております。
文部科学省では,平成 27 年 12 月に中央教育審議会で取りまとめていただいた3つの答申を具体化するため,「次世代の学校・地域」創生プランを策定し,教員の資質・能力の向上を目指す制度改革,「チームとしての学校」の実現,地域と学校の連携・協働に向けた改革,教職員定数の戦略的な充実等に取り組んでいます。また,平成 29 年1月には「学校現場における業務の適正化に向けて」を公表し,平成 29 年度予算において「学校現場における業務改善加速プロジェクト」を新たにスタートさせるとともに,部活動の適正化等を進めております。しかし,これまでの施策を推進することにとどまらず,今回の教員勤務実態調査(速報値)の結果を受け,明らかになった課題に対し具体的かつ実効性のある取組を更に進める必要があります。
教育再生実行会議第 10 次提言においても,学校・家庭・地域の役割分担やその教育力の向上を図るとともに,多様な専門スタッフの充実などチーム学校の実現や地域学校協働活動の推進,部活動の改革,学校事務の効率化,教員が担うべき業務の精選・明確化などを通じ,教員の働き方改革を実質的かつ着実に実行することが求められています。
教員の長時間勤務の要因を見直すことで,教員一人一人が様々な経験を通じて自らを研鑽できる機会を持てるようになり,更なる効果的な活動へとつなげていくことができるとともに,自らの意欲と能力を最大限に発揮できるような勤務環境を整備することで,教員は“魅力ある仕事”であることが再認識され,教員自身も誇りを持って働くことができるようになり,それがひいては子供の教育にも良い影響として還元されるものと考えます。
以上のような観点から,国公私立学校を通じ,新しい時代の教育に向けた持続可能な学校
指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について諮問
を行うものであります。
具体的には,以下の事項を中心に御審議をお願いします。
第一に,学校が担うべき業務の在り方についてであります。
教育基本法第 13 条では,学校,家庭及び地域住民その他の関係者は,教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに,相互の連携及び協力に努めるものとされています。また,現在,学校が行っている業務の一部は,本来,教育委員会事務局を始めとする行政機関が担うべきではないか,との指摘もあります。
こうした状況を踏まえ,学校が担うべき業務は何であるかについて御検討をお願いします。その際,
○ 部活動も含め,これまで学校が担ってきた業務のうち,引き続き学校が担うべき業務はどうあるべきか。また,学校・家庭・地域・行政機関等の役割分担の在り方及び連携・協働を進めるための条件整備等はどうあるべきか。
○ 関連法令で学校に義務付けられている学校関係書類や,行政機関,民間団体等から学校に依頼される各種調査業務等の精選をどのように進めていくか。
などの視点から,御検討をお願いします。
第二に,教職員及び専門スタッフが担うべき業務の在り方及び役割分担についてであります。
教員は学校教育の直接の担い手であり,その使命と職責は極めて重要であります。これまで培った日本の学校教育の良さを生かしつつ,教員が教育の専門職として,これまで以上に活力を持って子供の指導に一層専念することができるよう,教職員及び専門スタッフ等が担うべき業務の在り方及び役割分担等について御検討をお願いします。その際,
○ 「チームとしての学校」の実現に向け,教員が本質的に担うべき業務は何か。また,事務職員やスクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカー,部活動指導員など様々な専門スタッフや支援人材の役割分担及び連携の在り方はどうあるべきか。
○ 例えば,小学校では総授業時数が増加するといった状況の中,新学習指導要領等を円滑かつ確実に実施するために必要な方策をいかに講じるかといった,学習指導や生徒指導等の体制の強化・充実をどのように進めていくべきか。
○ 教職員が担うべき業務について,ICTの効果的な活用なども含めた更なる業務改善,その効果的な実施体制の構築に向けて,どのような方策を講じていくべきか
などの視点から,御検討をお願いします。
第三に,教員が子供の指導に使命感を持ってより専念できる学校の組織運営体制の在り方及び勤務の在り方についてであります。
教員が限られた時間の中で子供の指導に使命感を持ってより専念できる体制を整えるためには,個々の教員の業務の見直しのみならず,学校の組織マネジメントを強化する観点から校長・副校長・教頭の多忙についても解消し,その役割を十分発揮できるよう,学校が組織としての運営体制の強化・充実を図ることが必要であります。この点も含め,効果的な学校組織の運営体制の具体的な在り方について御検討お願いします。また,教員の職務は,自発性,創造性に期待されている面が大きいとされておりますが,一方で,このことは長時間勤務につながりやすい面もあることから,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して教員の心身の健康を損なうことがないよう,勤務時間の適正な把握を行う必要があります。その上で,活力を持って教員が業務に取り組み,子供の教育にもよい影響として還元するために,学校の特性を踏まえた勤務の在り方,勤務状況を踏まえた処遇の在り方について御検討をお願いします。その際,
○ 学校運営体制の強化・充実を図るためには,副校長,主幹教諭,指導教諭等の役割や主任の在り方,学校運営を支える事務職員など,学校組織運営の体制はどうあるべきか。また,管理職の意識改革も含めた効果的な学校マネジメント体制をどのように構築していくべきか。
○ 現在の学校内の校務分掌や整備することとされている各種委員会等の整理・合理化に向け,どのような方策を進めていくべきか。
○ 学校の特性を踏まえた勤務時間制度及び勤務時間管理の在り方はどうあるべきか。
○ 勤務状況を踏まえた処遇の在り方はどうあるべきか。
などの視点から,御検討をお願いします。
以上が中心的に御審議をお願いしたい事項でありますが,このほかにも教職員の働き方改革に関連し,必要な事項について幅広く御検討いただき,迅速かつ着実に実施していくために,逐次取りまとめていただきますようお願いいたします。