教科書の改善について(報告) ※新学習指導要領に伴う教科書検定の動向

5月22日、教科用図書検定調査審議会総括部会が開催され、「教科書の改善について」(報告)がとりまとめられ、文部科学省サイトで公開されました。
下記よりご覧いただけます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/tosho/toushin/1386149.htm

2016年9月8日、文部科学大臣から本審議会に対し、次の3点について審議要請がなされました。
(1)次期学習指導要領の実施に対応した教科書の改善方策について
(2)デジタル教科書の導入の検討に関連した教科書の改善方策について
(3)教科書検定手続きの改善方策について
これらについての報告となります。

以下、ICT CONNECT 21 として、注目点と思える記述を抜き出してご紹介します。

【引用に関して】
〇変化の激しい現代において,児童生徒が現状について正しく理解するためには,教科書においても,本文の記述との関係であえて古い統計資料を用いることが適切であるなどの場合を除き,可能な範囲で新しい統計資料を用いることが望ましいと考えられる。

〇また,統計資料を含む「引用資料」に関し,現行の検定基準において「必要に応じて出典,年次など学習上必要な事項が示されていること」が求められているが,特に統計資料が教科書に記載される場合においては,児童生徒が興味や関心を持ち,自ら調べ主体的に学ぶことに資するよう,出典ができる限り記載されることが適切と考えられる。

【英語】
〇現行の義務教育諸学校教科用図書検定基準において外国語科の「固有の条件」は中学校のみを対象としているが,次期学習指導要領においては,小学校高学年における外国語が新たに教科として位置付けられるため,小学校高学年も含めて対象とすることを検定基準上明確化する。

〇中央教育審議会答申において,外国語学習の特性を踏まえて,「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力等」を一体的に育成し,小・中・高等学校で一貫した目標を実現するため,そこに至る段階を示すものとして段階的に実現する領域別(「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やり取り)」「話すこと(発表)」「書くこと」の五領域)の目標を設定するとされたことや,教科書や教材を通して児童生徒がどのような力を身に付けるべきであるかということを念頭に置きつつ,学習指導要領における領域別の目標などを踏まえた教材とする必要があるとされたことを踏まえ,教科書の内容と領域別の目標との関係の明示など検定基準の必要な見直しを図ることが適当である。

〇中央教育審議会答申において,中・高等学校においては,教科書・教材の課題として,説明・発表・討論等を通じて,「思考力・判断力・表現力等」を育成するような言語活動の展開が十分に意識されていないと思われるものも見られ,言語活動の改善・充実に資する題材とする視点が必要とされたことを踏まえ18,現行の検定基準における言語活動に関する規定について,言語活動の改善・充実の観点から必要な見直しを図ることが適当である。

〇外国語ワーキンググループにおける審議の取りまとめ(報告)(平成28年8月26日)において,外国語科において指導する語彙について,小学校で600~700語程度,中学校で1,600~1,800語程度,高等学校で1,800語~2,500語程度と整理され,語彙や文法などは個別の知識・技能が実際のコミュニケーションにおいて活用されることとされたことを踏まえ,語彙が実際のコミュニケーションにおいて活用できるよう適切な配慮を求めることを検定基準において規定することが適当である。

【小学校におけるプログラミング教育に関連する規定の新設】
〇中央教育審議会答申においては,「将来どのような職業に就くとしても,時代を超えて普遍的に求められる「プログラミング的思考」などを育むプログラミング教育を通じて,身近なものにコンピュータが内蔵され,プログラミングの働きにより生活の便利さや豊かさがもたらされていることについて理解し,そうしたプログラミングを,自分の意図した活動に活用していけるようにすることもますます重要になっている」とした上で,特に,小学校段階について,理科における電気の性質や働きを利用した道具があることをとらえる学習,算数における多角形などの図の作成等を例示しながら,「学校における適切な指導を行うためには,教科等における学習上の必要性や学習内容と結びつけられた教材等が重要となる」としているところである。

〇このため,小学校の理科や算数の次期学習指導要領におけるプログラミング教育の位置付けを踏まえつつ,それらの内容が教科書で取りあげられるよう検定基準において規定する必要がある。

【デジタル教科書について】
〇昨年12月に取りまとめられた「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議最終まとめ(以下「デジタル教科書会議最終まとめ」という。)においては,デジタル教科書について,
①紙の教科書とデジタル教科書の学習内容(コンテンツ)は同一であることが必要,
②デジタル教科書については,改めて検定を経る必要はないとすることが適当,
③動画や音声等は,学習効果が期待されるものの,検定を行うことが困難,かつ,必ずしも適当ではないことから,基本的には検定を経ることを要しない教材として位置付けることが適当,
と整理されている。

〇現行の検定基準においては,URL・QRコード等の教科書上の取扱いについて定められておらず,事案ごとの対応となっているが,今後,掲載の増加が見込まれるとともに,基本的に各教科における取扱いを統一することが必要であるため,「引用」や「特定の営利企業,商品などの宣伝」とは別に,「教科共通の条件」においてURL・QRコード等の取扱いについて明確化することが適当である。

〇これに関し,審議においては,教科書の参照先の内容の質を担保するために一定の範囲における検定を求める意見もある一方で,一般のウェブサイト上の情報は,リンク切れでアクセスができなくなることや,内容を変えることも容易という可変性を有するものであることから,URL・QRコード等が参照するウェブサイト上の情報の全てを審査することは現実的には困難であるとの意見が多く出された。

〇さらに,多くの児童生徒が紙の教科書のみを使用して学習を行うことに鑑みれば,URL・QRコード等の無秩序な記載は望ましいことではないため,これらの教科書への記載は必要かつ適切なものに限定されるべきである。
このため,URL・QRコード等が参照させる情報自体は,教科書そのものではなくあくまでも学習上の参考情報として供するものであることを改めて確認するとともに,検定基準においては,掲載されたURL・QRコード等の参照先が一見明白に不適切な情報でないかどうか,本文と対応しているかどうかなどの観点から,限定的な範囲での審査にとどめることを明確化することが適当である。

〇また,URL・QRコード等が参照させる情報の内容は前述のとおり可変性を有するものであり,本来的には,教科書発行者の責任において教科書への掲載がなされることが必要であると考えられる。この点を明確化するため,教科書上に掲載するURL・QRコード等については,教科書発行者自身のサイトに限ることが適当である。その際,当該教科書発行者のコンテンツのみに限定するのではなく,当該サイトをポータルサイトとして,他の学習上有益なサイトのリンクを貼ることも考えられる。

〇デジタル教科書会議最終まとめにおいては,次期学習指導要領において,外国語教育とりわ
け小学校外国語科について,主たる教材である教科書に音声を加える必要が高いという意見や,「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やり取り)」「話すこと(発表)」「書くこと」の力を総合的に習得するため,教科書がその役割を適切に果たすことができるように,動画や音声等を含めたデジタル教科書を導入する意義が大きいという意見があった旨が言及されている。

〇このため,上記2.を踏まえたURL・QRコード等に係る「教科共通の条件」に加え,外国語の教科書の内容(本文のスクリプト)を音声化したものを教科書発行者のサイトに掲載した場合については,URL・QRコード等の積極的な記載を許容することを外国語の「教科固有の条件」として位置付けることが適当である。