プログラミング教育 教育委員会等ヒアリングレポート【第1回】

~プログラミング教育を全小学校で開始している教育委員会~

1.概要

 ICT CONNECT 21は、平成29年9月に「プログラミング教育WG準備会」を設置し、平成29年度は、プログラミング教育導入にあたり参考になる取り組みを収集しました。
 本調査の調査目的及び調査対象は以下でございます。

【調査目的】

教育委員会等へのヒアリングを通じ、教育課程内のプログラミング教育導入にあたり参考になる点を見出し、発信する。

【調査対象】

・プログラミング教育を進めている教育委員会、小学校
・プログラミング教育必修化に備え準備しようとしている教育委員会

 本ヒアリングレポートでは、上記の調査結果を展開致します。ヒアリングレポートは全3回に分けて展開する予定です。

2.教育委員会のご紹介

 ヒアリングレポート第1回は、既に小学校のプログラミング教育に本格的に取り組んでいる教育委員会のヒアリング結果をご紹介します。
 その教育委員会は、「柏市教育委員会」と「相模原市教育委員会」です。

 両市のヒアリング結果は以下でございます。
 ICT環境についてやICT支援員の状況など、ヒアリングの回答からはたくさんの参考になる情報が得られますので是非ご覧ください。

柏市教育委員会ヒアリング回答(PDF)
ヒアリング担当:ベネッセコーポレーション

相模原市教育委員会ヒアリング回答(PDF)
ヒアリング担当:ICT CONNECT 21 プログラミング教育WG準備会事務局
注)相模原市のヒアリングは、その後のヒアリングを有効に進めるために、先行して行いました。そのため、他のヒアリングシートとは若干異なる設問等があります。ご了承ください。

1)柏市教育委員会の取り組み

 柏市教育委員会は、2020年の小学校段階でのプログラミング教育必修化に備え、平成29年から4年生の総合的な学習の時間を2時間使い、市立小学校全校での取り組みを開始しています。
 柏市が目指す教育の方向性や、柏市が考えるプログラミング教育の必要性は、下記Webページからご確認いただけますので、是非ご覧ください。
プログラミング教育―市立小学校全校で行っています(柏市公式サイト)

2)相模原市教育委員会の取り組み

 相模原市教育委員会は、柏市同様に、平成29年から、市立小学校全校の4年生でプログラミング教育の取り組みを開始しています。特に相模原市では、「算数」の授業において実践していることが注目に値します。
相模原市のプログラミング教育の実施状況(相模原市立総合学習センター)(PDF)

両市へのヒアリングを通じて、共通して見られた特徴が3点ありました。以下にその特徴を記載致します。

3.両市へのヒアリングを通じて、共通して見られた特徴

1)教科教育に重点がある。

 「教科に重点があるか、プログラミング教育に重点があるか」の問いに対し、両市ともに「教科」との回答でした。
2020年から施行される小学校の新学習指導要領では、計画的に実施する学習活動として「児童がプログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」という記述が見られます。この記述に沿って、両市ともに、論理的思考力を身に付けることが目的であり、プログラミング(体験)はその手段、という姿勢で臨んでいることが伺えます。

 一方、教科教育に組み込むためのアプローチ方法は両市で異なります。柏市は総合的な学習の時間を2時間使うことで、4年生へのプログラミング教育を行っています。「今回実施したのは小学校4年生対象の総合的な学習の時間の2時間」(柏市へのヒアリング回答より)。これに対し相模原市では、算数のカリキュラムに直接反映させています。「算数のおよその数におけるプログラミングの授業実践」(相模原市へのヒアリング回答より)。両市とも、平成30年度、5年生の算数の多角形のカリキュラムにプログラミング教育を取り入れることを見越し、その前段階としての取り組みと思われますが、方法としては異なっています。

 多くの小学校では、新学習指導要領で例示された、5年生の算数「多角形」、6年生の理科「電流」にてプログラミング教育が行われることが予想されます。両市のように、アプローチの方法は様々ありますが、4年生段階からプログラミングに親しんでもらうと、5年生、6年生で行う「教科でのプログラミング教育」が有意義になる可能性が広がるかもしれません。

2)社会におけるプログラミングの意義を伝えようとしている。

 1)において、教育上の重点は「教科」と答えた両市でしたが、社会におけるプログラミングの意義を伝えようという意思を感じました。

 平成29年度の全小学校の実施では「4年生」の「算数」を選んだ相模原市ですが、総合的な学習の時間を有効活用することも狙われています。「総合的な学習の時間で、生活や社会課題を解決するためにプログラミングを用いよう、という姿勢で取り組むと、興味を持つ子が多くなると考えています。」(相模原市へのヒアリングシート回答)。

 上記で紹介した「相模原市のプログラミング教育の実施状況」(PDF)では、現課程における中学の技術分野での題材として「接触センサ走行型ロボットによる車庫入れや迷路抜け」が紹介されていますが、このような課題解決型の題材が小学校でも教材化されると、よりプログラミングの世界が広がります。

 また、柏市は、「プログラミング教育の狙いは何か」という質問に対し、次のような回答を寄せています。
「柏市としては、学習指導要領に載るかどうかということではなく、これだけプログラミングされたものが世の中にあるのだから、それを知っておくべきだと考えている。全ての子どもが、プログラミングは誰かの意図で作られたものであるということを知り、自分も作り手になれることを体験し、社会の中でのプログラミングの役割を知ることが大切だ。」
“なぜプログラミングを学ぶのか”ということを、児童・生徒にしっかり伝えていくことがとても大切です。

3)指導案の作成等、教育委員会がプログラミング教育導入を支援している。

 両市とも「プログラミング教育を先行して進めるきっかけを作ったのは誰か」という質問に対し、「教育委員会」の選択肢を選んでいます(相模原市は「ICT担当指導主事」という選択肢も選んでいます)。今回のヒアリングを通じても、教育委員会が主導する姿勢や、運用の際に全力で各小学校を支援する姿勢が伝わってきました。

 柏市はヒアリングにおいて「今回 4 年生で実施した内容は教育員会を中心に検討を進めた。その際に、Coder Dojo の人からも意見をもらい、ICT支援員とともに導入方法を考えた。」と語っています。教育委員会が主導しながらも、第三者による客観的な意見を大事にしている姿勢が伺えます。

 相模原市の平成29年度の授業実践は次のように語られています。「算数のおよその数におけるプログラミングの授業実践について、単元指導計画及び指導案を教育委員会で作成しました。委員会が提供した資料も含めて、そのまま授業を実施することができるパッケージとなっています。」。また、多くの先生の理解を得るために、公開授業の告知を周知徹底するとともに、先生方に公開授業に足を運んでもらうことを大切にされています。

 教育委員会の学校を支える姿勢が、プログラミング教育を実施していく上での一つのカギと言えそうです。

柏市および相模原市の下記記事も参考になりますので、どうぞご覧ください。

▼柏市
柏市教職員夏季情報活用研修講座 取材レポート(ベネッセ教育総合研究所「まなびのかたち」より)
▼相模原市
プログラミング教育の教員研修の事例―72の全市立小学校でプログラミングの授業実践を可能にした教員研修の工夫―(PDF)(『学習情報研究』2018年3月号より/掲載許可済)